民法条文研究3:詐欺、強迫、公序良俗違反

本日は詐欺からです。

1.定義

詐欺は「欺罔行為によって相手方を錯誤に陥れて行わせる意思表示」です。

2.効果

詐欺による意思表示は取消すことができます(96条1項)。
また、相手方ではなく第三者によって詐欺が行われた場合、

「相手方」が詐欺について「知っている(悪意)」場合

または、

詐欺の事実は知らなかったが「知らないことについて落ち度(過失)がある」場合

に限って本人は相手方に対して取消しを主張することができます(96条2項)。 

たとえ、「ダマされた」と感じても、本人としては契約全体に納得のいく結果であればそのまま有効にしておくことも選択肢として残しておく趣旨ですね。

もちろん、ダマされて契約をして、「納得できない!」ということであれば契約を取り消してはじめからなかったこと(=無効)にすることも可能です。

3.取消権行使の期間

なお、この取消しは

①詐欺をされた自覚があってから5年間
②詐欺の事実に気づかないまま20年間

の経過でできなくなります(126条)。

(取消権の期間の制限)
第126条 取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

4.第三者の保護

また、当事者でない第三者が取引間関係に入った場合、本人が取消すことによって、相手方が無権利者になり、さらにそのとばっちりで第三者の権利まで失うことになります(無から有は生まれない)。

しかし、取引にあたってそれなりに注意を払った第三者の権利が保護されないとすると、第三者は常に「いつ権利を失うかわからない」状態に陥り、安心して取引ができません。

こうした、第三者の利益を守ることで取引をスムーズにしていこうという考え方を

「取引の安全」

といいます。

そこでダマされた点に若干の落ち度のある本人の犠牲の下で、第三者の権利を守る(=取引の安全を図る)ための規定が96条3項です。

ただ、ダマされたとはいえ、本人の権利を犠牲にしてまで第三者の権利を守るため、その条件には以下の2点について厳格なルールがあります。

①取消し前に取引をしていること

これは「取消し」によってその地位が奪われる第三者を保護するのが96条3項の趣旨と考えられるため、第三者として96条3項で保護されるのは「取消し前」に取引をしている第三者に限定すべきという考え方です。

なお、取消し後に登場した第三者と原権利者との関係は「177条=登記の先後」の問題として物権変動と捉えているのが判例の立場です。

②第三者は詐欺について「善意」かつ「無過失」であること

第三者は詐欺の事実について「知らず」かつ「知らないことについて過失がない」すなわち詐欺のことについて第三者なりに注意深く検討して手を尽くしたが詐欺とは気づけなかった場合に限ります。

これは第三者の利益のために本人の権利を犠牲にすることとのバランスを図るうえで第三者に要求される注意です。

第三者に善意のみでなく、無過失まで要求することで、権利を失う本人と権利が確定する第三者との間の緻密な利益較量を可能にするものです。

5.強迫の定義

強迫とは相手に害意を伝えて畏怖させ意思表示をさせることです。

6.効果

効果は取消しです(96条1項)

7.詐欺と強迫の違い

詐欺とは異なり強迫については本人に落ち度はないので、

①第三者からの強迫では善意無過失の相手方にも取消しが主張でき、

②善意無過失の第三者に対しても取消しの効果を主張できます。

8.民法90条(公序良俗違反)

公序良俗に反する法律行為は無効です。

この無効は善意、善意かつ無過失の第三者に対しても主張できます。

公序良俗に違反する前提で裁判をして第三者の利益を保護するとしてしまうと、結果として公序良俗に反する権利を裁判所が認めてしまい、公序良俗違反の無効が無意味になってしまうからです。

例えば、違法な賭け事で負けた人が勝った人に家を贈与してしまったとします。さらにそのもらった人が善意の第三者に転売してしまったとしましょう。

第三者が負けた人を相手取り、「贈与したのだから引き渡せ」と給付判決をもらおうと提訴してしまったときに、裁判所が家を引き渡す給付判決を出してしまうと結果として公序良俗に反する内容を追認してしまうことになります。

このようなことが起こらないよう、公序良俗違反の無効は絶対的無効です。

次回は「代理」です。

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