民法条文研究2:錯誤(95条)

1:序論

民法95条は錯誤に関する規定です。
錯誤というのは、いわゆる勘違いです。
その定義は95条1項本文にあります。

2:錯誤の定義

すなわち、
①意思表示に対応する意思を欠く⇒相手に伝えたことに対応する真意(内心的効果意思)がなくそのことについて本人に自覚がない。つまり勘違い


②表意者(=勘違いした人)が法律行為(=契約など)の基礎とした事情についてその認識が事実に反する勘違い
 ⇒これは動機の錯誤と言って、買いたいという気持ちに変わりはないが、「あ、○○できないんだったら買うつもりなかった」というような勘違いです。


 例えば、「駅ができると思い、地価が上がるまでに土地を買っておこう」と思って買った土地の近くに駅はできず、勝手な思い込みであった。


 「自分は住宅ローンが通ると思ってマイホームを買おうとしたが、まさかのローン落ちになってしまって契約をやめたいケース」などが「動機の錯誤」です。

3:錯誤の効果

錯誤の効果は「取消し」です。
取消しとは民法120条で取消しできる人、民法121条で取消しの効果
(⇒取消すことで最初に遡って無効となる)
が規定されています。

【参考】民法121条
(取消しの効果)
 第121条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

ただ、気を付けたいのは「動機の錯誤」(95条1項2号)による取消しは「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示」されていた時に限って取消しうるとされています(95条2項)。


これは錯誤、特に動機の錯誤というのは相手方に見えにくく、相手の取引に対する信頼
(=確実に自分のものになるという期待)
を裏切る可能性があるからです。


なお、この動機は相手方に何らかの形で伝わればよく、
「明示的に伝えても、黙示的に伝えても」
よいものとされます。

4:錯誤取消の制限

しかしながら、錯誤というのは相手に見えない心の内なる理由による一方的なキャンセル行為なので、無制限に勘違いだからやめるということは言えません。


以下の場合は取消しができないとされます。
①法律行為の目的及び社会通念に照らし
 「重要なものでない」(95条1項柱書)
②錯誤に陥った表意者に「重大な過失があったとき」
 (95条3項柱書)

5:改正民法の追加点

「錯誤にあたって重大な過失のある表意者の取消権を認める」条文が追加されました(95条3項1号2号)。

①錯誤の相手方が、表意者の錯誤に気づいていたか(96条3項1号)
②錯誤の相手方が、表意者の錯誤に重大な過失のために気づいていなかったケース
 (95条3項1号)
③相手型も表意者と同一の錯誤に陥っていた場合(95条3項2号)


上記のいずれかに該当すると「重大な過失のある」表意者も取消しできます。 ただし、これらの場合でも、「社会通念に照らし重要なもの」 でなければ取消しはできません。

6:第三者と取消権者との関係

最後に、錯誤取消をした表意者がその取消しの効果(=原状回復)を第三者に求められるかについてです。

この点、表意者が錯誤を主張して取消しを主張した際の効果は、善意でかつ過失のない第三者に対抗することはできない、とされています。(95条4項)

錯誤によって作出された真実とは違う外観を、本人が取消す前に信じて取引に入ってしまう第三者がいることはあり得ます。


こうした権利の外観がある際に、本人の犠牲の下で、外観がホンモノと信じることに正当な理由のある第三者を守ることで取引きに安心を与える趣旨(=取引の安全)によるものです(権利外観法理)。


錯誤はできる限り表意者の取消し得る範囲を狭く解して相手方の保護をしようとしており、表意者の落ち度を小さくとらえています。


したがって、第三者の保護要件としても厳格にとらえるべきで、第三者は単に錯誤のことを知らないというだけでは救済されず、とことん、徹底的に調べた上で過失なく信じることが要求されます(95条4項)。

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